星に願いを


毎年ばかみたいに手紙が届く、この北の果ての家に、今年も山のように手紙が届いた。

俺は、じいさんの好物のホワイトシチューを煮立てながら、手紙を読む。

いろんな国の文字で書かれているその手紙は、すべて似たようなキーワードが並んでいる。

願い、手に入れたい幸福、

まぁ、そんなところだ。

本屋も、ビデオ屋もない、この北の国での唯一の娯楽がそれなので、手紙を出すやつには悪いが、俺の恰好な暇潰しになっている。

「ていうか、こういう他力本願なところが解せないんだよな。」

ひとりごちながら、マシュマロを浮かべたカプチーノを片手に俺は片っ端から読破していった。

小さな頃から手紙を読み続けてきたので、封を空ける前にどんな内容の手紙かくらいは分かるようになってしまった。

その手紙が醸し出す色、というか空気のようなもの。

卵色、空色、淡いピンク色、文面よりよっぽど饒舌に、情報を提供してくれる。

その手紙は、何ていうか夕暮れの溶けていきそうに甘い、薄い金を纏ったような色をしていた。

差出人のところを見ると、歪な文字で名前だけ書かれている。

幼い文字で書かれた名前はどこかの国の花の名前だった。

 

さんたさんへ

 

ぷれぜんとは

ままのびょうきをなおしてくれるおくすりがほしいです。

よいこでがんばります。

 

もも

 

その願いが、いかに強いものであるか、読むプロの俺にはわかった。そして、どうすることもできないことも、また事実だった。

「じいさん、」

夕食を用意しながら暖炉の前でうたた寝している、祖父を呼ぶ。多分、世界一有名なじいさんだ。

「叶えられない願いはどうしたらいい?あんただったらどうしているんだ?」

世界にはできることとできないことがあって、俺たちは魔法使いじゃない。どうしても叶えられない願いというのは存在する。哀しいことに、みんなが幸福だったら俺たちの存在する理由は要らない。

祖父はゆっくり目だけをこちらに向けた。豊かな口ひげから木製のパイプを燻らせている。

「その子のしあわせを、ただひたすらに願うのみだよ。」

祖父の声があまりにもやさしいのと、己の無力さに、泣きそうになった。

「いいかい?わしらは万能じゃない。万能じゃないが、できることはあるんだよ。みんなそれは同じ。自分にできることを精一杯やるだけさ。」

立ち上がって、俺の頭をくしゃくしゃに撫でて、祖父は言った。

その厚い手のひらの感じと、言葉のあたたかみとで、俺は、この人が世界中の人に必要とされている理由がわかった。

「俺もあんたみたいになれるかな。」

小さな声で聞いてみる。答えの代わりに祖父は笑った。

「さぁ、お前の作ったシチューを食べよう。今のわしらに出来ることをしようじゃないか。」

世界を少しだけやさしくする、偉大な祖父の手伝いをいつか俺も出来るように、今は自分のできることを精一杯やるだけだ。