029 デルタ


 

 

 

 

ぼくのなまえはきら。

綺羅星のきら、だ。

ぼくのしごとはながれぼしをひろいにいくこと。

このせかいにいくつもおちゆく、

かなしいながれぼしをひろいにいくことが、

ぼくのしごと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シューティングスター☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、誰かが死んだんだ。」

流れ星が流れるとりっちゃんは必ずそう言った。

「何、それ。縁起でもないなぁ。」

「この場合縁起とかはあんまり関係ないと思う。」

あれは14歳の夏。

林間学校で山梨に行ったとき。

生まれて初めて自分の年より沢山の星を見た。

山梨の星空はそれはもうすごくて、

「プラネタリウムかよ。」

あたしの側にいた山吹がそう呟いた。

あまりにも沢山のものを一度にみると、

それも星みたいに綺麗なものをみると、

人は、言葉をなくす。

「すっげ、ほんとに星が流れてくよ。」

「山吹、ぼうっとしてないで願い事、願い事。」

「だな。」

あたしとりっちゃん、それに山吹は流れる星に祈った。

願い事は、他愛もないこと。

多分、笑っちゃうくらいちいさなこと。

「死んだ人の魂が天国に登るときに、地上にいる人たちの願いの綺麗なものを、神様に伝えてくれるのよ。」

りっちゃんは言った。

りっちゃんが言うと子どものおとぎ話みたいなことも何故かそれらしく聞こえた。

「言ったな、律。」

急に真剣に祈りだす山吹。

「言っておくけど、山吹のはような邪な願い事は却下される可能性大よ。」

さらりというりっちゃんの横で大げさに山吹はこけてみせた。

「あはは、言われてやんの。」

「うっせ、お前こそどうせ痩せたいとかくだらねぇこと祈ったろ。」

「ばっかじゃないの。あたしは山吹とは違いますー。」

ここでいつも痴話喧嘩に発展しそうになる。

それを止めるのはりっちゃんの役で、

「じゃぁ3人の願いが選ばれるよう願っておこう。」

そう言って、ぎゅっと目を瞑った。

「じゃぁ俺も。」

「あたしも。」

甘い夏の夜に溶けていきそうなあたしたち3人の、

ささやかな願い事。

かわいい光景。

「また3人でここ来たいね。」

「大人になったら来ようか。」

「お前の言う大人ってなんだよ、ロストバージンか。」

「ああもう、くだらない、山吹。」

「じゃぁ、18歳。高校卒業の年にしようか。」

「うん、それがいい。」

18歳。

それぞれが、自分の思う道を歩き出そうとする一歩手前。

そんな長い航海の前にまた3人で、

星に祈りを。

 

 

 

 

 

きょうみたいにふゆのつめたい夜には、たくさんの星がながれる。

「こないな夜の仕事は堪えるなー。」

まっくろいコートにみをつつむ、彗さんはぼくのせんぱい。

「さむいもんねぇ。」

ぼくがいうと、

「気分的にもな。」

と彗さんはいった。

ぼくが?というかおをしていると、

「世は無情ってな。」

とさらにむつかしいことをいった。

どういういみ?ってきいても彗さんはおしえてくれなくて、

そのかわりぼくのあたまをぽんとたたいてわらった。

ぼくはたのしいことがあるときにわらうけど、

そのときの彗さんはなんだかかなしそうだった。

かなしそうなかおのまんま、

「ほな、いこか。」

っていってあいぼうのカラスの鬼丸をつれてしごとにでかけていった。

ほんとうはさっきのことばのいみをしりたかったけど、

夜はもうそこまできていた。

しごとにいかなくちゃ。

ぼくのあいぼうはいぬのロク。

ぼくたちは夜をかける。ながれるほしをひろいにいく。

こんやながれるほしはいくつだろう。

なんにんのひとがなくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りっちゃんと山吹とは中学に入ってから知り合った。

ふたりとも1年のとき同じクラスになって、

弓道部のりっちゃん、野球部の山吹、それに美術部のあたし。

何の共通点もなかったけど不思議と気があった。

山吹とはもともと赤点仲間で、理科の補習テストの試験監督代行がりっちゃんだった。

(弓道部の顧問が理科の前原だった。)

時間内に終わって(というか書けるところが殆どなくて)裏に漫画を描いていると

カンニングしようとした隣の山吹がそれにうけて、

監督代行のりっちゃんまでがツボにはいってしまったという、

なんともマニアックな出会い。

愛読書が手塚治虫というりっちゃんは笑いのセンス、というところであたしと気があって、

山吹は、何だろう?あたしの美貌に参った?

なんて、冗談。

山吹が参ったのはりっちゃんのほう。

クラスでも人気者でけっこうもてた山吹は、自分になびかないりっちゃんに

そのときから惹かれていたんだと思う。

りっちゃんはりっちゃんで、これまた実は顧問の前原を好きだったというオチ。

これはあたしとりっちゃん二人だけの秘密なんだけど、

実は山吹も知っていた。

教えたのはあたしで、だからこれは3人の秘密ということになる。

山吹はそれにもめげず、

「前原のどこがいいんだ、あんなオヤジ!」

と毎日こっそり悪態をついていた。

「や、前原先生けっこう若いし、男前だし、何気にりっちゃんとお似合いかも。」

りっちゃんの朝練の時間、あたしたちはまだ誰もいない教室でこんな話ばかりしていた。

午前7時、目覚めたばかりの世界。

「大体なんであんたは練習しないわけ?ちょっとはりっちゃんを見習えよ。」

「俺はいいの。練習しなくてもうまいから。

お前こそむだに早くきてんだからよ、ちったぁ予習とかすれば。」

「うるさいなー。ほっとけよ。」

あたし達は勉強も部活も中途半端で、やりたいことやうちこんでいることが特にあるわけでもなく、

「恋愛だけには一生懸命!」

な3人。(バイ山吹)っていうか一生懸命にならざるをえない恋をしていたのだ、3人とも。

「あ〜、不毛!なんかいいことないかな、俺。」

「だねー。」

「律が振り向くとか、律が振り向くとか、律が振り向くとか。」

「うわ、3回言ったよ、こいつ。」

「うっせ、お前も俺のために祈れ。」

「じゃぁあんたもあたしの為に祈ってよ。」

「あぁ、キムタクな。お前の恋は小学生か?ってな。」

「うるさい、せーので祈るよ。」

「「せーの。」」

(山吹が振り向いてくれますように、山吹が振り向いてくれますように、山吹が振り向いてくれますように!)

くそー、3回言ったよ。(心の中で)

何て不毛なあたし達の恋。

あのとき山吹はあたしのために祈ってくれたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひろったほしはいろんないろをしている。

すんでいるもの、よどんでいるもの、あたたかいかんじのもの、きれいなもの。

「ロクー、きょうのほしはなにいろだろうねー。」

ロクがぼくをみる。ロクのひとみはぼくがひろうほしににている。

「きれいなやつがいいな。ゴッドがみてよろこぶようなやつ。」

ほしのいろはそのままたましいのいろ。

ゴッドはきれいなものをこのむ。

きれいなほしをたくさんひろってゴッドのよろこぶかおがみたい、

そう彗さんにいったら、

「お前が星の色の意味をちゃんと知ったらゴッドも喜ぶとちゃうんか。」

といわれた。

「しってるよ。たましいのいろでしょう?」

彗さんはいつもかんじんなことをおしえてくれない。じぶんできがつくことがたいせつなんだって。

ほしがたましいのいろをうつすのはしっている。

ぼくらにつげるねがいごとのきれいなものを、ゴッドがえらんで、できるかぎりかなえてあげることも。

せかいはひろくて、それはもうほんとうにひろくて、

いろんなことがおこるから。

めにみえることも、

みえないことも。

いろんなことがおこるから。

ぼくらがその夜ひろったほしはとてもかなしいいろをしていた。

あさやけのそらのような、

うまれたばかりのちょうちょうのはねのような、

とうめいでふるえるようなかがやきをもつそのほしは、

きこえないくらいちいさなこえで、ないていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは山吹が好きで、山吹はりっちゃんが好きで、りっちゃんは前原が好きで、

あたしたちの不毛な恋は微妙なバランスを崩さないまま、中学卒業を迎えた。

「あぁぁ、こーやって3人でいるのもきょうで最後かよ。」

「山吹が言うと情緒がないのはこれまたどうして。」

「お前、最後までそれかよ。」

「ドンマイ。」

「意味わかんねーし。」

教室に絶妙の角度で日差しが入る。

いいにおいの風が通ってあたしたちの脇を通り抜けた。

「律は?」

「前原のとこにあいさつにいってる。」

「げ。」

「あんたも最後までそれかよ。」

「いんだよ、俺は。ほっとけ。」

あたし達は、『友達』という言葉の意味を知っていた。その力も威力も知っていた。

その言葉を盾に、できることとできないことを知っていた。

そのすべてを含めて、あたしたち3人は友達でいることを決めた。

「お待たせ。」

戻ってきたりっちゃんがすごくきれいだったので、すっきりと笑っていたので、

「告ってきた。」

そう、なんでもない風に言うので、何て言われたのか聞かなくても分かった。

「そっか。」

山吹は知らない振りをしていた。

でもりっちゃんのことだから、山吹が知らない振りをし続けていたことも、

果ては山吹の気持ちさえも気がついていたのかもしれない。

「あー、すっきりした!我が中学生活に悔いなし!」

「うん、りっちゃんえらかった。」

「よし、律!お前にこれをやろう。ありがたく受け取れ。」

「いらない。」

「そーか、そーか、うれしいか。」

「いらないっつうの。」

「ぎゃはは。ばかじゃん、山吹。」

「うるせー。お前にはやらん!」

「んじゃぁあたしはそんな傷心の山吹クンにこれを差し上げます。」

「おお、って意味わかんね。」

それからあたし達は笑った。

平行線をたどるそれぞれの恋に、終わってしまうひとつの季節に、言わなかった言葉に。

西日の傾く教室で、卒業証書が揺れていた。

山吹はりっちゃんに第2ボタンを、あたしは山吹に制服のスカーフを、

それがそのときのあたし達のせいいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分がひとりぼっちのような気がしたの。」

「みんながあたしをおいていくような気がしたの。」

「ただ、さみしかったの。」

ぼくがひろったかなしいいろのほしは、ぼくよりすこしおおきいおねえさんのかたちをして、

そう、いった。

きゅうん、とロクがないておねえさんにすりよった。

「あたしあんたたちがなにか知ってるよ。」

おねえさんのひとみはほしのいろ。

かなしい、かなしいほしのいろ。

「死神、っていうんでしょう。」

わらったかおがぞっとするほどさみしかった。

ぼくらのことをひとがなんてよんでるかはしっている。

てんしとよんだひともいたし、

おねえさんみたいにしにがみとよんだひともいた。

でもほんとうはぼくらはなにものでもない。

ただ、ほしをひろいにいくだけのもの。

「あたし、死ぬのね。」

そういったおねえさんのこえはなんだかからっぽにひびいた。

「なにかねがいはありますか?」

はやくゴッドのところへとどけたいのに、おもわずぼくはそうきいていた。

おねえさんがあんまりかなしそうだったから。

ただ、あんまりかなしそうだったから。

おねえさんは「そうね、」とすこしかんがえてから、

「最後にあたしの短い人生の中で確かだったものが見たい。」

といった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしたちは3人別々の高校へ進んだ。

あたしは普通の公立高校、

りっちゃんは私立の女子高、山吹は野球の強い工業高校。

最初のうちは休みの日のたびに何回か会うようにしていたが1年もたつとぐんと回数も減った。

みんなそれぞれの生活に忙しかった。

新しい友達も出来たし。そうなると自然に疎遠になるものだ。

それでも信じていた。

友達という言葉の意味はそういうものだと思っていた。

「俺たちは友達でいよう、おとなになっても、ずっと。」

そう言ったのは山吹で、

「また3人であの星を見ようね。」

そう言ったのはりっちゃんで、

何の約束も誓いもしていないあたしだけがふたりの言葉を信じていた。

前みたいに会えなくなっても、

りっちゃんからの電話がメールになっても、

山吹からは年賀状すら来なくなっても、

あたしは信じていた。

『友達』という言葉の意味、その威力。

目には見えなくても、信じていた。

だってあたしにはそれしかなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とかいの夜はほうせきばこをばらまいたみたいだっていうけど、

ほんとうだ。

ひとつひとつをつなげていくと、

きょだいな夜にひそむネックレスのようになる。

「今この世界で何人の人があたしの為に涙を流しているのかな。」

おねえさんのこえはきかいみたいだ。

ぼくらはジオラマのようなせかいを、

しずかなきもちでながめていた。

 

 

 

 

あたしにはあたしの居場所がある。

そう思うことで大嫌いだった高校も行くことができた。

りっちゃんと山吹には言えなかった。

だってふたりはちゃんと高校生してて、

友達だっていっぱいできて、

思い出に生きているのはあたしで、

ふたりに置いていかれたくなかった。

いっしょに大人になりたかった。

どんどん先に行ってしまうふたりを、

あたしは100m走のスタート地点で転んだまま、

ふたりの背中だけを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあたしはうまく生きれなかったのかな。」

おねえさんはそういった。

きかいみたいなこえで。

うまくいきるってどういうことだろう。

だれがきめるのだろう。

 

 

 

 

 

 

信じていたのはあたしだけ?

りっちゃん、山吹、あたしは中学のときみたく笑ってないよ。

多分、ふたりの前でも笑えないよ。

みんながあたしを嫌っているみたいで、

電車で隣に座った人まであたしのことを嫌いな気がする。

生きていてごめんなさい。

誰への謝罪?

ねぇ、それでも、

助けて欲しいとは言えなかった。

「山吹と付き合ってるんだ。」

あの時なんで、あたしは

笑っていたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジオラマみたいなとかいの夜に、

いくつもいくつもほしはながれる。

ほしのいろはどんなだろう。

なんにんのひとがなくだろう。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ山吹、あたしあの子の悩みとかって聞いたことなかった。」

「うん。」

「たくさん、たくさん言葉は交わしたのにね。」

「だな。」

「あの子、多分あんたのこと好きだったと思う。ちゃんと聞いたわけじゃないけど。」

「それは、」

「気付いてたでしょう?そんな話一度もしなかったし、あたしたちに笑っておめでとうとか言ってたけど、」

「うん。言ってたな」

「きっとものすごくさみしかったんだろうね。」

とてもとても、かなしかったんだろうね。

さみしくて、さみしくて、死んでしまうくらい、

気がついてほしかったんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おねえさんは、ないていた。

しろくうかびあがるびょういんのおくじょうのうえでかわされたかいわに。

はなしているふたりもないていて、

おねえさんもないていた。

なみだのいろはかなしいけれど、おんどがあるとしたらあたたかなかんじだった。

やわらかくて、きれいな、けっしょうのようななみだだった。

 

 

 

 

 

「あ、流れ星。」

その時りっちゃんは『誰かが死んだんだ』とは言わなかった。

その代わり、山吹と手をつないで祈った。

ふたりで、強く。

夜空を見上げて、強く。

「戻っておいで、あんたの居場所はここだよ。」

戻っておいで、

戻っておいで、

さようならはまだ、ずっと、先。

戻っておいで、

戻っておいで、

「また3人であの星空を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのとき、とかいの夜のあかりがいっせいにきえて、

たくさんのほしがうかびあがって、

ゴッドがねがいをききとどけたんだとおもった。

あんまりたくさんのほしがふだん目にはみえなくて、

目にはみえないのにたしかにそこにある。

 

 

 

 

 

 

気が付くとあたしたちはあのときのように言葉をなくし、

ただ夜空を見上げていた。

3人で手をつないで、

あの夜と同じ。

まったく同じ。

泣きたくなるような星空を。

だけどあたしの声はふたりにはもう届かない。

ごめんね、りっちゃん。

ごめんね、山吹。

あたし、弱い子でごめん。

「誰にもなんにも言わないで逝くんだから。ほんとう、むかしからそう。」

「人の話は聞いてあげるくせに自分のことになると全然だもんな。」

ふたりの声はあたしに届く。

深く、心を貫く。

りっちゃんは泣いていた。

山吹も泣いていた。

知りたかったことはもうとっくのむかしに分かっていた。

ごめん、りっちゃん。ごめん、山吹。

ふたりしてあたしのこと祈ってくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

これがあたしの短い人生の中で確かだったもの。

この世で見た、最後の真実を胸に、あたしは逝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのよるのしごとをおえて、いつもならほっとしているはずなのに、ぼくはかなしかった。

なんだかわからないけど、とてもかなしかった。

しごとをおえた彗さんがきてぼくのとなりにすわった。

ぼくらのいるばしょは、たかい、たかいタワーのうえ。

ひとびとはそれを『とうきょうタワー』とよんでいた。

そこからはあさひにそまるまちがいちぼうできた。

のぼるあさひ、はじまるいちにち。

「お疲れさん、今日拾った星は綺麗な色してたか?」

彗さんはたばこにひをつけてぼくにそういった。

彗さんはしごとがおわるとかならずいっぷくする。

ぼくはたばこのけむりがあんまりすきじゃないけど、

あたらしいくうきの中でかぐけむりのにおいはいやじゃなかった。

「すごくきれいないろのほしをひろいました。ちょうどきょうのあさひににてます。」

ぼくはおねえさんのほしをおもいだしながらいった。

「そりゃぁよかったな。ゴッドもえらい喜んでたやろ?」

「…そのほしがつたえたねがいも、ききとどけてくれました。」

「大サービスやなぁ。ゴッド、ええことあったんかな。ま、何はともあれ目標達成おめでとさん。」

もくひょう、

そのはずなんだけど。それをのぞんでいたんだけど。

「……ぼく、あんまりうれしくない。」

うれしくないんです、ぼくはもういちどそういっておねえさんのことをはなした。

彗さんはだまってきいて、そしてたばこのけむりをながくはいた。

「ぼく、はじめてぼくたちのしごとがかなしいしごとだとおもいました。」

彗さんはぼくのあたまをくしゃくしゃっとなでて、

「星の色の意味を少しだけ知ったんや。その分大人になったっちゅうことやな。」

といった。

 

ぼくのなまえはきら。

綺羅星のきら、だ。

ぼくのしごとはながれぼしをひろいにいくこと。

このせかいにいくつもおちゆく、

かなしいながれぼしをひろいにいくことが、

ぼくのしごと。

 












ライナーノーツ

ほしのひかりはむかしのひかり。
川上弘美さんの小説、『神様』の中の一文です。
すてきな文だと思いました。きれいな文だとおもいました。
きれいなものはじっとみると何だかかなしい。
ほしのひかりようなお話を書きたいと思い、書きました。
このちいさくふるえるようなお話がながれ星のようにだれかのこころまで届くことを祈って。