1.アトリエ



さきちゃんの拾ってきたものの中で、じーは最高だったと思う。
何しろさきちゃんは色んな物を拾ってくる。
テレビ、ラジオ、壊れた時計、ナット、猫、ビー玉、缶バッチ、小石、他にも、もっとだ。
さきちゃんの拾ってくるもののせいで、私たちの住む家はがらくただらけで、まるでお化け屋敷のようだ。知り合いから譲り受けた古い家は、植物に覆われ、物が魔力を持ち、古い道具がひっそりと息づく、つまり人より自然の力が強い家となった。
おかげで家の中にいてもいつでも野外にいるような気がした。
じーは私たちの家を『アトリエ』と呼んだ。
私たちは、何も持たず、何者でもなく、何かを生み出すわけでもなかったけれど。
私はその呼び名をじーと同じくらい好きだと思った。
 
 
私の名前はみゃあという。本当は岸本(きしもと)()()という名なのだけれど、子猫みたいに小さくてうるさいので、『みゃあ』と呼ばれている。さきちゃんが付けた。
さきちゃんというのは私の母親で、本当はさゆきという。でも呼びにくいので、さきちゃん。
物心ついてからさきちゃんはずっとさきちゃんで、『お母さん』と呼んだ記憶はない。
8才の子どもをもつ親にしてはさきちゃんはあまりにも若いから。
さきちゃんが拾ってきたじーというのは、さきちゃんより少し年下の男の子だ。男の人、と言うべきなのかな。本当の名前は『つむじ』というらしい。変な名前だけど本名だ。
言いにくいので『つむじ』の『じ』だけとってじー。
アルファベットでもカタカナでもなくて、ひらがなでじーという、呼び名は私が付けた。
じーを呼ぶとき、ひらがなのまるっこい、やわらかい感じを思い出す。
だってそれがじーにぴったりだから。
 
 
そして、これは私たちが3人で暮らした、ささやかでかわいらしい日々の物語だ。