ジューサー
花さんの仕事がうまくいった記念にジューサーを買ってあげた。
仕事がうまくいって順調なのはいいけど、最近の花さんは睡眠不足と肩こりにそれはそれは悩まされているようなので、これはささやかだけど、俺からのねぎらいの意味を込めての贈り物だ。
気に入ってくれると良いと思う。
そして、じゃんじゃん、新鮮なフルーツや野菜でジュースを作ると良いと思う。
「・・・というわけで、プレゼント。これで、たくさんジュースを作って。」
「何、ジューサー?」
「うん。白くて、ボタンがピンクで、かわいいよ。きっと気に入ると思う。」
「わぁ!うれしい。ありがとう。」
思ったとおり、花さんはおおよろこびしてくれた。
よかった。
「環くんの買ってくれるものは何だってうれしいよ。」
こうまでよろこんでくれるのなら、買った甲斐があるってものだ。
早速何かジュースを作ろう、ということになって、近所の八百屋さんと果物屋さんまで買い物に行った。夕方の買い物は幸福な感じがする。とても。途中、おいしそうな焼き鳥もあったので、晩ごはん用にそれも買う。ねぎまを2本、サービスしてくれた。
俺たちが買ったものは、トマト、セロリ、バナナ、りんご、それから豆乳に、ルビーグレープフルーツだ。とりあえず、野菜ベースのジュースと豆乳ベースのジュース2種類が作れる。
セロリを買うとき、花さんは苦い顔をしていたけど、俺はそれを無視した。(花さんはセロリが苦手だ)何でもジュースにしてしまえば、嫌なものも半減するかもしれないし。
透明の低いタンブラーに2種類のジュースを注いで、乾杯する。
キッチンの薄ぼんやりとした灯りの下。
花さんは、豆乳ベースのばななとりんごの入ったやつを選んだ。
俺の野菜ジュースをひとくちあげると、しかめっつらをして衝き返してきた。
「セロリの味がする。」
「あたりまえだろ。セロリ入れたんだから。」
「ジュースにしても苦手なものは苦手だなぁ。」
「身体に良いから飲んで欲しいんだけど。」
「とりあえず、今飲んでるのでじゅうぶん、身体に良いと思う。」
「減らず口。」
「頑固者。」
俺たちは互いにひとことも喋らず、ジュースを飲み干した。
甘くてふわふわしたものだけでは、世の中は渡ってはいけないのだということを、花さんはわかっていないと思う。
とりあえず、毎朝このジューサーでフレッシュジュースが飲めるかと思うと、買っても良かったもののうちに入るだろう。花さんが飽きたとしても、俺だけは続けようと思う。
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