愛するものと幸せになりたい。

ただ、

それだけなんだ。

 

 

 

 

第3話 デイドリムビリ

 

「クロ。もらってきたよ、りんご、ひとはこぶん。」

手押し車に入った箱いっぱいの艶やかな林檎を見せ、

足そうにそらが言う。

「おう、ごくろうさん。朝メシとっていいぞ。」

っ赤に光る林檎のひとつひとつを確かめながらクロが答える。

僕らが此て一週間が過ぎた。

其の日の市場からの仕入れは僕らの仕事だ。

朝早くのこの仕事は大だけど、僕らはとてもに入っていた。

この仕事をするようになって初めて僕らは夜明けの街を見た。

今日は昨日のきでしかないと思っていたけれど、

今日は昨日とは別の日なんだ。

そういうことを肌で感じた。

それに、

あいつは朝日が嫌いだ。

朝日の中なら万一見つかったとしても逃げられるがした。

もっとも、そう思っているのは僕だけで、

そらは純に朝の光の中に居られることを喜んでいたんだと思う。

 

今朝の僕らの朝ごはんはベコンエッグと

パストラミビ
フのサンドイッチ。

それにどろりと濃いコ

て一週間。クロはどうやら濃いコが好きらしく、

夜中のような色したコを淹れてくれる。

(もちろん僕にはミルクだけど、)

「ボス」はコが嫌いだった。

「ママ」の淹れたコをしかめっ面でんでいた。

それでも「ボス」がコさずみ干していたのは、

きっと「ママ」の事が好きだったからだ。

店のにあるキッチンの窓から差しむ光の中で、

僕はそう思った。

「ママ」に「ボス」。

もういなくなってしまった優しいひとたち。

 

12時。たいして混しない「三日月亭」も

この時間だけはそれなりに忙しくなる。

クロは無心で鍋を振るい、そらは店け回る。

僕はぼんやりと其れらをながめる。

いい光景だと思う。

幸せだと思う。

皆がいい顔で食事をしている。

んで、食べて、笑う。

そういうたり前の事が、ぼくとそらには新鮮だった。

願わくば、

願わくばこのままひっそりと、

しあわせに。

クロは不思議な男だった。

何ももっていないのに全てを手に入れているような男。

そしてときどきぞっとするほど淋しそうに笑った。

店に訪れる人してクロは、

この世界に
加していないようながした。

ソラは、知っていただろうか。

「クロ」、

「クロ」

そらが名前を呼ぶ度に、クロが淋しそうな目をしていたことを。

そして、僕は其の目を知っていた。

かで、僕は其の目にっていた。

 

「クロさん最近しそうじゃねぇか。」

のピクが終わった店の中、低い男ので僕は目がめる。

見るとカウンタで常連のハツマさんが

クロの淹れたコ
を啜っていた。

そらは午後の買出しに市場へ行っている。

僕は店の椅子の上で惰眠を貪っていた。

「そんなことねぇよ。」

クロはじゃが芋の皮をむいているらしく、

シュッ、という音が下がりのかな店に響いている。

「そらちゃん、だっけ?いい子じゃねぇか。」

「まぁな、あほだけどよ。」

聞き捨てなら無い暴言を吐くクロにむっとしたが、

ここはとりあえず抑えてたふりをける。

「ははは、不思議な子だよなぁ。」

ハツマさんが豪快に笑う。

はじめてったとき、僕はこの人の大きながとても怖かった。

びくびくしている僕をハツマさんはぐしゃぐしゃに撫でて、

「怖がんなくていいぞ、」と言った。

同じことを確か誰かにも言われた。

もう怖がらなくてもいいぞ。

「ジャン」、

低い、テノル。

「ジャン」、

「俺たちでソラを守ろうな。」

 

「何てゆかあいつを見てると、リリを思い出す。」

シュッ、皮をむく音とクロの言葉。

「うん。似てるな。」

「雰囲気とかとか、ぜんぜん別なんだけど、

そらの、俺を見る目の中にリリがいるんだ。」

リリ?誰だろう。

「うん。分かるよ。」

ハツマさんはそう言ってコを啜った。

「ただいま。」

ちょうどいいタイミングでそらがってきて

この話は打ち切りとなってしまったけど、

クロの淋しげな瞳の相がこの話にはされているような、

そんながした。

「おせぞ、そら。」

「ごめんなさい。いちば、おもったよりこんでました。

あっ、ハツマさん、こんにちは。」

「はい、こんにちは。」

ハツマさんはにこにこしながら、夜の準備を始める2人を見ている。

僕は再び眠りに落ちた。

 

 

夢を見た。

嫌な、夢だった。

一生明けることの無いかのような暗闇の中。

泣くような、叫ぶような、喘ぐ、「ママ」の

何度も、

何度も、

果てて、

そして其れがエンドレスで繰り返される。

果てる直前、死を前にした死刑囚のような顔して、

僕を見て、微笑んだ、「ママ」。

ソラヲマモッテネ。

僕は、部屋の隅っこで震えている。何もできずに。

 

目がめて

が「三日月亭」の階にある僕らの部屋だと付くまで

かな
りかかった。

よかった。

はあそこじゃない。

あいつはいない。

隣で眠るそらを見上げて、ほっとする。

よかった。そらもちゃんといる。

でも、

あれは夢じゃなかった。

「ママ」はあいつに殺された。

あいつはこの世界の何かにちゃんと存在している。

そして僕らを探しにる。

ソラを連れしに、いつの日か、必ず、

る。

「ボス」から「ママ」を奪ったように。

この世界から、ソラを奪うんだ。

もう怖がらなくてもいいぞ。

「ボス」はそう言った。

「俺が、ママもソラも守ってやる。

もちろんお前もだ、ジャンベルティノ。」

でも「ボス」はいなくなった。

「ママ」があいつに殺されて、

「ボス」は僕らの前から姿を消した。

僕は知ってるんだよ。

愛が世界をえられないこと。

「ボス」は「ママ」を、愛していたのに。

とてもとても、愛していたのに。

だけど「ボス」は知らなかったでしょう。

「ママ」だって「ボス」を愛していた。

そしてね、「ボス」を愛していたから、あいつに殺されたんだ。

あいつもまた、「ママ」を愛していたから。

 

僕は知っている。愛で世界はえられない。

新月に向かう月が、ようやく夜空に引っかかっている。

世界の外れの小さなカフェ。

あぁ、思い出したよ、クロ。

クロのあの目は、「ボス」と同じ。

「ママ」を見ていた、水たまりのような「ボス」の目と、

おんなじなんだ。








願い事をひとつしよう。

君の小さなてのひらに、

僕の指を絡ませて、

誰にも聞こえないように、

そっと願いを唱えよう。

空に輝く、星に、

猫の目をした三日月に、

世界でいちばんかんたんで

世界でいちばんむずかしい、

そんな願いを唱えよう

、どうかお願いです。

愛した人がしあわせに、

笑って生きていけますよう、

僕らの願いはただそれだけ。

 

 


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