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知りたいのは果ての先、 お伽話の続きの話。 其の先が知りたくて、 僕らは進んだ、 武器も持たずに。 第5話 エンドオブザワールド 雲が光を隠した、どろりと暗い、月無しの夜。 とうとうあいつが此処までやって来た。 震えるそらを抱えるようにして、店の奥へと運ぶと、 「これ飲んで休んでろ、店はいいから。」 クロはそう言ってホットショコラを淹れてくれた。 其の声はそらに届いているのだろうか。 そらと、ソラに。 月の見えない夜は不安だ。 怖くて、心細い。 闇が僕たちを飲み込んでしまいそうで。 そらまで、いなくなってしまいそうで。 僕は、怖かった。 どれくらい時間が経っただろう。 そらの僅かに震える肩が少しずつ、治まって、そらが、 もうすっかり冷えてしまったクロの淹れたホットショコラに手を伸ばした。 店の方はもう、ラストオーダーの時間らしく、 食事を愉しむ人々の声が僅かに聞こえてくる。 「ジャン、」 そらが、言う。 ・・・違う。 そらじゃない。 「ジャン、久しぶりやね。」 艶っぽい、微妙にイントネーションの違う言葉で話す。 其れは、 「蜜蜂」だった。 ソラの中にいる「そら」以外の人格。 「蜜蜂」。 「そないに驚かんでもええやん。うちかてソラの一部やで?」 そう言って僕を抱き上げる。 「まぁ、ここんとこそらが出張ってたさかいな、驚くんはしゃぁないな。」 見据える瞳の中に真っ赤な炎が燃えているかのような、光。 あぁ、「蜜蜂」だ。 「そらのことやったら心配せんでええよ。 今、ソラの中で眠ってるさかいな。 僕にそう話しかけながら、「蜜蜂」はクロの淹れたショコラを飲み干した。 そうだ、 クロ。 クロは「蜜蜂」を見てどう思うだろう。 ソラの中にいる、「そら」と「蜜蜂」。 クロが唯一知っているのは「そら」で。 其のことをどう思うだろう。 反応しだいでは、もう此処には居られなくなるかもしれない。 それでなくても此処はもうあいつに知れてしまった。 僕たちは、逃げなければいけない。 生きるために。 其れが、「ママ」と「ボス」が命を懸けて教えてくれたこと。 「アンタ今どないしよう思うてんねやろ? 『どう逃げるか』、アンタの頭は其ればかりや。」 見透かすように「蜜蜂」が言う。 そうだよ。其れ以外に僕らに何が出来るの? 逃げて、逃げて、あいつの追ってこない最果てまで、 逃げて。 「それで?」 「其処には何があるんや?」 自由?希望?愛?夢? 其処には何が? 「そんなとこには何もないで。」 「在るのは、果てだけや。」 じゃあどうすればいいんだよ。 あいつはもう此処を見つけてしまった。 あいつは今すぐにでもそらを、ソラを奪いに来るかもしれないのに、 僕らに出来るのは何なんだよ。 武器も、 愛する人を守る強さも持たない僕らに、 一体何が出来るというのだろう。 「逃げてるばかりじゃあかんで。立ち向かわな。 うちは其の為に出て来たんや。」 揺れる、炎。いつかの「ママ」のような瞳をして、 「蜜蜂」はそう言った。 「うち気付いてもぅたわ。もうすぐうちもボスみたいに消えてくんや。 や、消えてくんとはちゃうな。溶けゆくんかな。 皆がひとつのソラに戻る。そういう日がもうすぐ来るんや。」 皆がひとつのソラに戻る。 「せやから其の前にやることやっとかんと。 「蜜蜂」はそう言って、とても綺麗な顔で、 笑った。 「蜜蜂」の使命。 其れはクロに、全てを話すこと。 其れが、使命。 クロと、僕と、ソラで、あいつに向かう。 其れが僕らの密やかな計画。 「大丈夫やって。心配せんでも全てはうまくいくんやって。 そうしたら、皆で、」 幸せになろうな。 最後は「ママ」と同じ顔で。同じ、笑顔で。 あぁ、この人たちは全て繋がってるんだ。 ソラに、溶けてるんだ、 そう、思った。 幸せになろうな。 かつて同じことを言った人がいた。 「ママ」、 「ボス」、 そして、「蜜蜂」。 みんな僕らの前から消えて行った。 それでも、 しあわせになりたい。 当たり前のような日常を手に入れることすら贅沢な望みだった僕らの、 がむしゃらなまでの願い。 みんなで、 しあわせになりたい。 只、其れだけなんだ。
只、幸せになるために、 僕らの立てた、 密かな計画。 子どものころに聞いたような、 お伽話の続きの計画。 とても、とても愛した人を、 悪い奴から守るため、 握ったナイフは銀の色。 其れは、冴えた、月のナイフ。 僕らの武器はこれだけで、 其れだけがナイトの証。 暗い闇夜を切り裂こう。 自由と光を手に入れよう。 只、ひたすらにがむしゃらに、 世界の果ての其の先の、 夢の続きが見たいんだ。
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