生まれてこなければ良かったの?

あたしはいらないこどもなの?

それなら、いっそ、殺して欲しかった。

 

 

 

 

6話 ラストフレンド

 

僕とソラが出ったのは、ソラが16の時だった。

ソラは、あまり笑わない、かな子だった。

其の時僕は旅の途中で、

立ち寄った小さな町で、空腹を何とかしたくて彷徨っていた。

小豆色した秋の夕方。

金木犀の香る路地。

で、僕はソラと出った。

時小さな子どもだった僕は、人なんか信用できずに、

警戒の塊で世界を生きていた。

でも、其の時、ソラを見た時、何ていうか、

やっと僕の人生が動いた、

大袈裟じゃなくそう思ったんだ。

ソラは空腹の僕に一切れのパンとソセイジをくれた。

かな、かな瞳の中にかさを見つけた。

僕の居場所は此だと思った。

が、僕らを引き合わせてくれたと感じた。

そんな、

いだった。

僕たちは友達になった。

お互い、この世界で初めて出た友達だった。

「ヒソカはね、夜になるとあたしを探すの。」

友達になって日目の夜、いつもの路地でソラは言った。

僕は、ソラの言う「ヒソカ」という人が誰なのか知らなかったけど、

ソラのの感じからして嫌な奴だと思った。

「ヒソカ」。

其の言葉は僕の嫌いな言葉になった。

其の言葉を思うとき、

ねっとりとした力に、頭が痛くなった。

「ヒソカはあたしを探してママを出せ、って言うの。

ヒソカはママが好きだから。」

出さないとどうするの?

僕は聞いた。

「ぶたれるのよ。そしてあたしをママの代わりにするの。

ママに代わってあたしを陵辱するのよ。」

僕は、其の言葉の意味を知らなかったけど、

きっと嫌な言葉だと思った。

そういう響きだった。

「だからこの頃ママはすぐに出てくるの。

出てこないでって言ってるのに。」

あたしはママが犯されているほうが辛いのに。

ソラはそう言った。

 

其の頃ソラの中にはすでに別の人格が存在していて、

友達になってわりとすぐに、其の人たちを紹介された。

「ママ」に「ボス」、「蜜蜂」が其の主だった。

「ママはあたしが小さいときからそばに居るの。

いつもお話をきかせてくれるんだよ。」

ソラは言った。紹介はく。

「ボスはあたしが9つのときにやってたの。

無口で、あんまり笑わないけど、とっても優しい人だよ。」

「蜜蜂がたのは割と最近だよね。あたしが14のとき。

この中ではいちばんおしゃべりかなぁ。

あたしたちとは違う雰囲気の言葉をしゃべるのよ。」

言い方はいけど、

入れ物はひとつで其の中に山のソラが詰まっているような印象を受けた。

でも、違うんだ。

其の人たちを知っていって判ったけど、

あきらかにソラとは違う。

「ママ」も、「ボス」も、「蜜蜂」も、

それぞれに意思を持っていて考え方も違うようだった。

難しいことはわからないので、

そのまま4人の人と思って付き合うことにした。

4人ともそれぞれ大好きな人たちだった。

みんなやさしく、かくて、

でも、

幸福にしてだけ4人とも共通して貪欲だった。

 

 

「ヒソカ」を初めて見たとき、

背中の毛が全部毛羽立ったのをえている。

「ヒソカ」は恐怖そのものだった。

底無しの沼のように薄暗い目で、

氷のように冷たい笑い方をする男。

モノを見るようにソラを見る。

皆、ソラが好きだったから、何とかして奴からソラを救いたかった。

何度も、何度も、奴の元から逃げては捕まり、

其の度にソラの体には戒められた跡がえていった。

陵辱の跡はそのまま逃亡の跡。

何度か「ママ」や「ボス」が代わって出たりしたけど、

奴はソラになるまで其の行を止めない。

「ボス」なら肉体的暴力。

「ママ」なら性的暴力。

「蜜蜂」なら言語的暴力。

ありとあらゆる暴力をえ、

ソラになるまで其れをける。

皆ソラが好きだったから、どんな暴力だって耐えていた。

でもソラも皆を好きで、

皆が辛いのが耐えられなくて、

いつもソラはひとりで「ヒソカ」の陵辱に耐えていた。

 

僕らに味方なんて居なかった。

希望なんて言葉、吐きがする。

幸せそうに笑っている人を見ると憎らしかった。

何で、生まれてきたんだろう、

ソラは其ればかりを繰り返し、

でも皆が居るから、

と何とかぎりぎりの笑顔で、

しがみつくようにしてこの世界に、

いた。

 

何で、生まれてきたの?

何のために生まれてきたの?

どうして、

幸せになれないの?

 

まるで

何かを償うかのように、

「ヒソカ」に耐え、

答えの出ない疑問を繰り返し、

そして、

ついにソラは心を閉ざした。

 

 

其の日、

僕が知っているソラの代わりに居たのは、

「ジャン。こわいよ。こわくてこわくてたまんないよ。」

そう言って僕にしがみついてくる小さな子供のようなソラ、

「そら」だった。

 

何も見ないように、

何も聞こえないように、

何も分からないように、

全ての感情を閉ざして。

 

其の日から、

そらは生まれた。

 

ソラは滅多に出てこなくなって、

そのうち、「ママ」が殺されて、

「ボス」が消えて、

僕たちは逃げた。

 

胸にっているのは在りし日の像。

未だ、

を信じていたころのソラ。

僕は、

僕に出るのは、

只そばに居るだけ。

そばに居て、

この世界の凍てつく刃から。

君の痛みを少しでも和らげることだけ。

生まれてこなければよかったと、

君は何度もいて、

この世界を嫌する。

小さな祈りはかずに、

僅かな希望は奪われて、

何のために生きてるの?

にいけばしあわせになれるの?

誰も知らない其の答え。

誰かえて欲しかった。

されてしまわないように、

君は心に鍵をかけ、

ひとりで泣いているのでしょう。

僕らは世界を彷徨って、

最後の砦を得たけれど、

運命は常に酷で、

君まで行ってしまったの?

へ行けば許される?

へ行けば愛される?

答えはいつも闇の中。

僕らは世界に漂う悲しきみなしご。

 

 

 


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